
トレードのメンタル管理
※本記事には広告(PR)を含む場合があります。
2月の、午前1時すぎでした。その日は3回続けて損切りにかかっていて、金額でいえば大きくない。ただ、3回目を切ったあとに、僕は同じ方向へ、量を倍にして入り直しました。根拠を紙に書いていません。書けなかったからです。ポジションを持ったまま、スマートフォンの画面を天井に向けて置いて、しばらく天井を見ていました。
結果はどうでもよくて、問題はその30分のあいだ、自分が何も考えていなかったことでした。手法の問題ではありません。あの晩に足りなかったのは、熱くなった自分を止める仕組みのほうです。
心の持ち方を説く記事ではありません。公表されている統計と公的な目安を土台に、止まれる仕組みを自分で作るための材料を並べます。眠れない、気分が沈む状態が続くときは、統計より先に医療機関やお住まいの地域の相談窓口へ。
会社には仕組みがあり、一人には何もない
会社にいたころ、年に1回、ストレスチェックの用紙が回ってきました。真面目に答えたことは正直あまりない。辞めてから、その用紙が回ってこないことの意味を考えるようになりました。
厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.2パーセント、令和5年調査は63.8パーセントでした。事業所規模別では、労働者50人以上で94.3パーセント、30〜49人で69.1パーセント、10〜29人で55.3パーセント。取組内容では「ストレスチェックの実施」が65.3パーセントで最も多くなっています。
大きな会社にいた人ほど、自分では気づかないうちに仕組みの中にいた、ということです。94.3パーセントの側から出てくると、その仕組みは一緒に付いてきません。相場で一人でやるというのは、成績の責任だけでなく、この点検の役目まで引き受けることでもある。
だから僕は、辞めた年に自分用の点検表を作りました。凝ったものではなく、日曜の夜に5つの欄を埋めるだけのものです。今週の睡眠の平均、夜中に口座を開いた回数、根拠を書かずに入った本数、人と話した回数、来週の予定の数。どれも1分で書けます。
点数を付けたり良し悪しを判定したりはしません。並べるだけです。3週分並ぶと、悪くなる週の手前に同じ形が出ていることに気づきます。人と話した回数が0の週の次に、根拠の無い取引が増える。この順番は、僕の場合はっきりしていました。用紙が回ってこないなら、自分で回すしかない。
うちの列だけ、ストレスの中身が違う
同じ調査の個人調査のほうを見ます。仕事や職業生活における不安やストレスに関する事項によると、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は68.3パーセント。令和5年調査では82.7パーセントでした。差が大きいので後で触れますが、この2年は設問の形式が変わっています。
内容を主なもの3つ以内でみた数字が、これです。
| 強いストレスと感じる事柄の内容 | 令和6年 | 令和5年 |
|---|---|---|
| 仕事の量 | 43.2% | 39.4% |
| 仕事の失敗、責任の発生等 | 36.2% | 39.7% |
| 仕事の質 | 26.4% | 27.3% |
| 対人関係(セクハラ・パワハラを含む。) | 26.1% | 29.6% |
| 会社の将来性 | 22.2% | 22.2% |
| 雇用の安定性 | 11.2% | 9.6% |
2年を並べたのは、変わった行と変わらない行を見たかったからです。会社の将来性は2年とも22.2パーセントで動いていません。ただし同じ表の注には、令和6年は令和5年より趣旨明確化の観点から本設問の形式を変更したため、数値の比較には留意が必要である、と書かれています。上がった下がったを語るには向かない並びだ、ということです。
この表を自分に当てはめようとして、手が止まりました。対人関係の26.1パーセントは、一人でやっている僕には当たりません。会社の将来性も、雇用の安定性も同じです。残るのは「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」の2つ。そして、この2つは自分で決めています。
量を決めているのも、失敗の責任を負っているのも自分だけ。相手がいないぶん、外から止まる理由がありません。会社にいたころ、量が多すぎると感じたら上司に言えました。いまは言う先がない。言う先がないなら、仕組みを先に作っておくしかない、という結論になります。
この調査の対象は、常用労働者10人以上を雇用する民営事業所から無作為に抽出した約14,000事業所と、そこで雇用されている労働者から抽出した約18,000人です。僕はこの母集団に入っていません。それでも表の形は、自分の状況を映す鏡として使えました。
手法より先に削れるのは、判断力のほう
熱くなった夜のあと、僕が最初に疑ったのは手法でした。順番が違っていた。厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023には、睡眠不足が日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下といった多岐にわたる影響を及ぼす、と書かれています。
情動不安定と、判断力の低下。あの晩の自分を説明する言葉が、手法の本ではなくこちらに載っていました。
同じガイドの成人版の推奨事項には「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する。」とあります。現状の数字も並んでいて、令和元年の国民健康・栄養調査で1日の平均睡眠時間が6時間未満の者の割合は男性37.5パーセント、女性40.6パーセント。令和3年のOECDの調査報告では、日本人の平均睡眠時間は調査対象33カ国の中で最も短かった、とされています。
僕があの晩に眠った時間は4時間ほどでした。翌日も相場に向かい、そこでもう1回やっています。負けが連鎖したのではなく、判断できない状態が2日続いただけでした。
熱は回数で測る
自分が熱いかどうかを、損益の額で判断するのはやめました。額は言い訳ができるからです。小さいうちは「まだ許容の範囲」と言えるし、大きくなってからでは止まれません。
代わりに数えているのは、夜中に口座を開いた回数です。3回を超えた日は、翌朝に量を半分にする。この線の引き方は自分のリスク許容度を知るのほうに詳しく書きました。回数はごまかせません。開いたか開いていないかの二択で、解釈が入り込む余地がない。
もうひとつ数えているのが、根拠を書かずに入った取引の本数です。月に2本を超えたら、その月は新規を止めます。この数字を決めたのは、2月の晩のあとでした。あの取引が1本目で、翌日のが2本目です。2本で止めるルールがあれば、3本目は無かった。
止まる仕組みは、環境のほうにも置ける
意志で止まるより、開くまでの手数が多いほうが確実でした。通知の設定や画面の切り替えは各社で違うので、比べるときは公式サイトの最新の表示をご確認ください。
負けた直後の30分に、ルールを1つだけ置く
いちばん危ないのは、負けた直後の30分だと思っています。そこに置いているルールは1つです。損切りにかかったら、その場で席を立つ。
立つだけで、何分と決めていません。決めると守れないからです。水を飲みに行く、洗い物をする、外に出る。戻ってきたときに同じ気持ちのままなら、もう一度出ます。
この1つだけにしたのには理由があります。負けた直後は、複雑なルールを実行する力が残っていません。3つあれば3つとも守れない。1つなら、動作が体に残っていれば動けます。あの晩の僕には、その1つが無かった。
記録に、感情を書く欄をあえて作らないことにした
取引の記録に「悔しい」「焦った」と書いていた時期があります。やめました。感情の言葉を書くと、その言葉で説明がついてしまうからです。焦ったから負けた、と書けば、その日はもう考えなくてよくなる。
いまの記録に残しているのは、入った時刻、根拠を書いたかどうか、量、直前の取引の結果、夜中に開いた回数の5つです。感情の欄は無い。代わりに、行動として現れた痕跡だけを残しています。
そうすると、後から読み返したときに言い訳が効かなくなります。2月の記録には、根拠の欄が空白で、直前の結果が3連敗、量がいつもの2倍と並んでいる。感情の言葉が1つも無いのに、あの晩の自分がそのまま写っていました。記録の付け方はFXの取引記録の残し方にまとめています。
強くなったのではなく、弱いまま回るようにした
メンタルの話は、鍛えるという言葉で語られがちです。僕は鍛えられませんでした。2年たったいまでも、3連敗したあとの手は速くなります。変わったのは、速くなった手が届く範囲のほうです。夜中の3回目で量が半分になり、根拠の無い2本目で新規が止まり、損切りの直後には席を立っている。
会社にいたころ、年に1回回ってきた用紙は、僕を強くするためのものではありませんでした。ただ、様子を確かめるためのものです。労働者50人以上の事業所の94.3パーセントが対策に取り組み、そのうち最も多い取組内容がストレスチェックの実施だった。鍛えるのではなく、定期的に測る。一人でやる人間に足りないのは、たぶん強さではなくこの測る手順のほうです。
いまも2月の記録は消さずに残してあります。強くなった証拠としてではなく、同じ空白の欄をもう一度作らないための目印として。相場は明日も開きます。開いたときに、こちらが判断できる状態でいられるかどうかだけが、長く残るかどうかを分けていると思っています。
FX(外国為替証拠金取引)は為替相場の変動により損失が生じるおそれがあり、預けた証拠金を上回る損失が生じる可能性があります(元本保証はありません)。本記事は情報提供・読み物を目的としたものであり、特定の取引を推奨するものではありません。「必ず勝てる」「誰でも自由になれる」といった事実はありません。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。掲載内容は執筆時点(2026年6月)の一般的な情報です。本サイトはアフィリエイト広告(成果報酬型広告)を利用する場合があります。

