
脱サラの現実とお金の準備
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ハローワークインターネットサービスの基本手当についてには、手当を受けられない状態の例が4つ並んでいます。そのうちの1つが「定年などで退職して、しばらく休養しようと思っているとき」です。会社を辞めたあとに少し休みたい、という気持ちは、制度の側からは失業として扱われません。
脱サラを考えるとき、僕らは辞めたあとの暮らしを想像します。制度のほうは、辞めたあとの「状態」を見ている。この2つはずれています。ずれたまま辞めると、当てにしていたお金が来ない月が生まれる。僕は兼業を3年やってから専業に移りましたが、あのとき効いたのは相場の腕ではなく、この事務の下調べのほうでした。
脱サラを勧める記事でも止める記事でもありません。公表されている制度の文言と数字を並べて、辞める前に確かめられることを確かめるための材料です。個別の判断はご自身で、手続きの可否は各窓口にご確認ください。
「失業」と認められないと、1円も出ない
基本手当の受給要件は2つあります。ハローワークに来所して求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就職できる能力があるのに職業に就けない「失業の状態」にあること。そして、離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること。倒産や解雇にあたる特定受給資格者と特定理由離職者は、離職の日以前1年間に6か月以上でも受けられます。
ここで見落としやすいのが、被保険者期間の数え方です。同じページには、離職日から1か月ごとに区切った期間のうち、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上、または賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上ある月を1か月と計算する、と書かれています。在籍した月数ではありません。休職や時短が挟まった年がある人は、自分で数えてみると印象と食い違うことがあります。
僕が辞めたのは月の半ばでした。最後の月が1か月にカウントされるのかが分からず、離職票をもらう前に窓口で聞いた。数分で終わる話です。辞めてから調べると、調べている間も家賃は引き落とされます。
もらえる日数は、辞め方と勤めた年数で決まる
所定給付日数は90日から360日の間で決まります。幅がこれだけあるのに、自分がどこに入るかを知らずに辞める人が多い。基本手当の所定給付日数の表から、両端と真ん中を抜き出します。
| 区分 | 被保険者であった期間 | 所定給付日数 |
|---|---|---|
| 1及び3以外の離職者(全年齢) | 10年未満 | 90日 |
| 1及び3以外の離職者(全年齢) | 10年以上20年未満 | 120日 |
| 1及び3以外の離職者(全年齢) | 20年以上 | 150日 |
| 特定受給資格者(45歳以上60歳未満) | 20年以上 | 330日 |
| 就職困難者(45歳以上65歳未満) | 1年以上 | 360日 |
この表には期限つきの注記も付いています。特定理由離職者のうち「特定理由離職者の範囲」の1に該当する方は、受給資格に係る離職の日が2009年3月31日から2027年3月31日までの間にある方に限り、所定給付日数が特定受給資格者と同様になる。期間の定めのある労働契約が更新されなかった人は、この日付を見ておいたほうがいい。
自分から辞めるということは、いちばん上の列に自分を置くということです。20年勤めても150日。5か月ぶんに届きません。倒産や解雇でこの会社を出る人と、自分の意思で出る人とでは、同じ年数を働いていても受け皿の長さが倍以上違う。この差は努力でどうにかなるものではないので、先に知っておくしかない。
1日いくらか、には上限がある
日額の決まり方も、同じページに書いてあります。離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金の合計を180で割った額が賃金日額。基本手当日額はその50〜80パーセント、60歳から64歳は45〜80パーセントで、賃金の低い人ほど高い率になります。
そのうえで、年齢区分ごとに上限額があります。令和8年8月1日現在で、30歳未満が7,450円、30歳以上45歳未満が8,270円、45歳以上60歳未満が9,110円、60歳以上65歳未満が7,830円。賞与は賃金日額の計算から除かれるので、年収に占める賞与の割合が大きかった人ほど、想像より低く出ます。
仮に30歳以上45歳未満の人が上限いっぱいの日額で90日ぶんを受け取ったとすると、8,270円×90日で744,300円。これは上限に張り付いた場合の数字で、実際の日額は賃金日額から決まります。僕の月の支出は22万円前後なので、この上限額でも3か月と少しで尽きる計算になる。半年ぶんの備えの代わりにはなりません。
なお同じページには、偽りその他不正の行為で受けた場合、返還に加えて、不正に受けた額の2倍に相当する額以下の納付を命ぜられる、とあります。開業の準備を隠しながら受け取る、という選択肢は最初から無いものとして考えたほうがいい。
自分で始めるなら、受給期間を3年延ばせる特例がある
受給期間は原則として、離職した日の翌日から1年間です。ここは日数ではなく期限の話で、所定給付日数が残っていても期限が来れば打ち切られます。
脱サラを考える人に関係するのは、その先に書かれている特例のほうです。離職日の翌日以後に事業を開始した方、事業に専念し始めた方、事業の準備に専念し始めた方は、事業を行っている期間等を最大3年間、受給期間に算入しない特例を申請できます。条件は4つ。事業の実施期間が30日以上であること。開始した日などから起算して30日を経過する日が、受給期間の末日以前であること。その事業について就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと。自立することができないと認められる事業ではないこと。
そして申請期限は、事業を開始した日・事業に専念し始めた日・事業の準備に専念し始めた日の翌日から2か月以内です。辞めた直後の2か月は、引っ越しや保険や名刺で消えていきます。僕はこの2か月という数字を、辞める前のメモの先頭に書き写しました。
ひとつ断っておくと、為替の売買がここで言う事業に当たるかどうかは、このページの文言だけでは決まりません。登記事項証明書や開業届の写しといった客観的資料の話も並んでいます。当てはまるかどうかは窓口の判断になるので、当てにする前に聞いてください。
健康保険は、20日を過ぎると選択肢が1つ減る
会社を出た日から、健康保険証は使えなくなります。選び直す先は主に3つで、そのうち任意継続だけが期限つきです。
全国健康保険協会の任意継続の加入条件については、条件を2つ挙げています。資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2か月以上あること。資格喪失日から20日以内に、任意継続被保険者資格取得申出書を提出すること。20日目が土日・祝日なら翌営業日まで。この20日は、辞めたあとで気づくには短い。
保険料の土台になる標準報酬月額にも上限があります。協会けんぽの令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限についてによると、令和8年度の上限は32万円。令和7年9月30日時点における全ての協会けんぽの被保険者の標準報酬月額の平均額が318,100円で、これが第23級の32万円に該当するためです。在職中に32万円を超える標準報酬月額だった人は、この上限で頭打ちになります。
ただし在職中は労使折半だった保険料が、任意継続では全額自己負担になります。給与明細に載っていた額の倍が、そのまま自分の口座から出ていく。国民健康保険と比べてどちらが安いかは前年の所得と自治体で変わるので、両方の額を出してから決めるほうがいい。
年金は、毎月17,920円が無条件で来る
日本年金機構の国民年金保険料には、国民年金保険料の金額は1カ月あたり17,920円です(令和8年度)、と書かれています。12か月で215,040円。所得がゼロの月にも同じ額が来ます。
会社にいたころ、この負担は厚生年金保険料として給与から引かれ、半分を会社が持っていました。辞めた瞬間にその半分が消える。消えたぶんが増えたように見えるのではなく、明細に載らなくなっていた事実が、口座の引き落としとして表に出てくるだけです。
同じページには、月額400円の付加保険料を納付することで将来の老齢基礎年金の額を増額できる制度も載っています。免除や納付猶予の仕組みもありますが、使えば将来受け取る額に影響します。どちらも自分の年金記録に直結するので、判断の前に年金事務所で確かめてください。
辞めたあとの固定費を、1枚に書き出す
ここまでの数字を、会社にいたときと並べます。並べると、辞めるという行為が「収入が止まる」だけの話ではないことが見えます。
| 項目 | 会社にいたとき | 辞めたあと |
|---|---|---|
| 健康保険 | 労使折半・給与天引き | 任意継続は全額自己負担(標準報酬月額の上限は令和8年度で32万円) |
| 年金 | 厚生年金保険料として天引き | 国民年金 月17,920円(令和8年度) |
| 住民税 | 特別徴収で毎月天引き | 前年の所得に対する額を自分で納付 |
| 収入 | 毎月ほぼ同額 | 基本手当は最短90日で終了 |
住民税が効きます。前年の所得に対して課されるので、収入が止まった年に、働いていた年の額が請求される。僕はこれを甘く見ていて、辞めた年の6月に届いた納付書の金額を見て、しばらく封筒を持ったまま立っていました。額そのものより、そこに前の年の自分が残っている感じが重かった。金額と納期は自治体で違うので、お住まいの市区町村の案内で確かめてください。
辞める理由が「会社の将来性」なら、数字はこう出ている
辞めたい理由を、感情のまま扱わずに分類したほうがいい場面があります。厚生労働省の令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)によると、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は68.3パーセント。令和5年調査は82.7パーセントでした。ただし同じ資料の注に、令和6年は令和5年より趣旨明確化の観点から本設問の形式を変更したため、数値の比較には留意が必要である、と書かれています。減ったと読むのは早い。
その内容を主なもの3つ以内でみると、「仕事の量」が43.2パーセントで最も多く、「仕事の失敗、責任の発生等」が36.2パーセント、「仕事の質」が26.4パーセントと続きます。「会社の将来性」は22.2パーセント、「雇用の安定性」は11.2パーセント。
この並びの意味は、辞める前の切り分けに使えます。量が理由なら、部署や働き方を変えることで減る余地がある。将来性が理由なら、社内でできることは少ない。前者の人が辞めると、辞めた先でも量の問題は形を変えて残ります。僕は量の側の人間でしたが、専業になっても自分で仕事を詰め込む癖は変わりませんでした。変わったのは、詰め込んだ結果の責任が全部こちらに来たことだけです。
辞める前に、手元の数字をそろえる
受給日数、保険料、住民税。ここまでの項目は、在職中なら1日で調べられます。取引の環境を比べるのはそのあとで足ります。各社の条件は変わるので、確かめるときは公式サイトの最新の表示をご覧ください。
辞めずに試せることを、先に全部試したか
僕が兼業だった3年、相場に使えた時間は朝20分と夜30分でした。合わせて1日1時間に届かない。その時間で結果が出ないなら、時間が10倍になっても同じことが起きるだろう、と当時は考えていました。実際には、時間が増えると別の問題が出ます。見る時間が長いほど手が増える。
それでも、辞めずに試す期間には決定的な利点があります。失敗しても給料日が来ることです。同じ失敗を専業でやると、失敗の翌月に生活が削られる。学ぶ速度は落ちますが、学べる回数は増える。
在職中にしかできない準備も、いくつかあります。クレジットカードの審査、住まいの契約、健康診断。どれも会社員という肩書きがあるうちのほうが通りやすい。僕は専業に移って最初の更新で、前年の所得を証明する書類を追加で出すことになりました。手間としては小さい。ただ、辞めたあとは小さな手間が重なる時期に重なります。
辞める前に確かめておくといいのは、成績よりも続き方のほうだと思っています。半年のあいだ、記録を付け続けられたか。負けた週の翌週に量を増やさずにいられたか。この2つに「はい」と言えないなら、収入が止まった状態でできる見込みは薄い。
辞める前にやることを、番号で並べておきます
解説の代わりに、順番だけ置いていきます。上から順に、在職中に片付くものだけを並べました。
| 順番 | やること | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 1 | 被保険者期間が通算12か月以上あるかを数える | ハローワーク「基本手当について」 |
| 2 | 自分の所定給付日数が90日か120日か150日かを見る | ハローワーク「基本手当の所定給付日数」 |
| 3 | 直前6か月の賃金から日額のおよその額を出す | 同上(上限額は年齢区分ごと) |
| 4 | 任意継続と国民健康保険の保険料を両方出して比べる | 協会けんぽ・お住まいの市区町村 |
| 5 | 月17,920円の年金保険料を固定費に足す | 日本年金機構「国民年金保険料」 |
| 6 | 前年の所得に対する住民税の額と納期を確かめる | お住まいの市区町村 |
| 7 | 1から6の合計を、いまの貯蓄で何か月もつか割る | 自分の家計簿 |
| 8 | 事業開始等の特例を使う気があるなら、2か月の期限を控える | ハローワーク |
8番まで埋まった紙を見てから決めれば、辞めるにしても残るにしても、理由を数字で言えます。僕が辞めた日にできていなかったのは4番と6番でした。埋まっていない欄があるまま出ていくと、あとから請求書の形で戻ってきます。
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