
損失補塡は「事故」だけが例外|金商法39条と府令118条を読む
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損をした分を業者に埋めてもらう、という発想がそもそも成り立たないことを、僕は条文を読むまで知りませんでした。禁じているのは各社の社内規程ではなく、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)の第39条です。しかも禁止されているのは業者だけではありません。
この記事では、その条文がどこまでを禁じ、どこを例外にしているかを文言のまま並べます。僕が触っているのはドル円とユーロ円の2つだけですが、線の場所は商品に関係なく同じです。
トラブルの解決手順を案内する記事ではありません。条文が何を禁じ、どこを例外にしているかを文言のまま並べます。個別の事案がどれに当たるかの判断はしません。
禁止されているのは、実行ではなく申し込みから
第39条の見出しは「損失補塡等の禁止」。第1項は金融商品取引業者等に対して、次に掲げる行為をしてはならない、として3つの号を並べています。デリバティブ取引が対象に入るので、FXもここに含まれます。
第1号が禁じているのは、損失が生じたり、あらかじめ定めた額の利益が生じなかった場合に補塡する旨を申し込み、若しくは約束する行為。第2号が、実際に生じた損失を補塡する旨を申し込み、若しくは約束する行為。第3号が、補塡するために財産上の利益を提供し、又は第三者に提供させる行為です。
並べ方に段階があります。事前の約束、事後の約束、そして実行。3つとも別々に禁じられています。つまりお金が動かなくても、約束した時点で終わっています。
顧客の側も禁じられている
読んでいていちばん意外だったのは第2項でした。主語が業者ではなく顧客になっています。金融商品取引業者等の顧客は、次に掲げる行為をしてはならない、と。
禁じられているのは、第1項第1号や第2号の約束をすること、そして第3号の財産上の利益を受けること。ただし括弧で条件が付いていて、当該約束が自己がし、又は第三者にさせた要求による場合に限る、とあります。利益を受ける行為のほうも、前二号の約束による場合で、その約束が自分の要求によるときに限られます。
自分から求めたかどうかが分かれ目になっている。業者が勝手に提案してきたのを断らなかった、というのと、こちらから頼んだ、というのは条文上まったく別の扱いです。
例外は「事故」だけ、その中身は府令にある
第3項に例外があります。第1項の規定は、申込み・約束・提供が事故による損失の全部又は一部を補塡するために行うものである場合には適用しない、と。
問題は「事故」が日常語ではないことです。条文はこう定義しています。
金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人の違法又は不当な行為であつて当該金融商品取引業者等とその顧客との間において争いの原因となるものとして内閣府令で定めるもの
定義を府令へ投げています。受け取った先が、金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)の第118条です。第1号は、代表者・代理人・使用人その他の従業者が業務に関して次の行為によって顧客に損失を及ぼしたもの、として5つを挙げています。
- イ 顧客の注文の内容について確認しないで、当該顧客の計算により有価証券売買取引等を行うこと。
- ロ 有価証券等の性質、取引の条件、価格の騰貴・下落などについて顧客を誤認させるような勧誘をすること。
- ハ 顧客の注文の執行において、過失により事務処理を誤ること。
- ニ 電子情報処理組織の異常により、顧客の注文の執行を誤ること。
- ホ その他法令に違反する行為を行うこと。
並んでいるのは全部、業者側の落ち度です。相場が動いて損をしたことは1つも入っていません。ここが読みどころだと思っています。
実行するには、事前の確認がいる
第3項にはただし書きが付いています。第1項第2号の申込み又は約束、および第3号の提供については、その補塡に係る損失が事故に起因するものであることにつき、当該金融商品取引業者等があらかじめ内閣総理大臣の確認を受けている場合その他内閣府令で定める場合に限る、と。
手続きも書かれています。第7項によれば、確認を受けようとする者は、確認を受けようとする事実その他の内閣府令で定める事項を記載した申請書に、当該事実を証するために必要な書類を添えて内閣総理大臣に提出しなければなりません。
つまり業者は独断で返金できません。事故に当たると自分たちで思っても、あらかじめ確認を取る必要がある。
確認がいらない場合は、7つ並んでいる
府令の第119条が、その確認を要しない場合を列挙しています。読んでいて分かるのは、どれも第三者が既に判断を下している状態だということです。
- 裁判所の確定判決を得ている場合
- 裁判上の和解が成立している場合(民事訴訟法=平成8年法律第109号の第275条第1項に定めるものは除かれます)
- 民事調停法(昭和26年法律第222号)第16条の調停が成立した場合、または第17条の決定に対して期間内に異議の申立てがない場合
- 金融商品取引業協会や認定投資者保護団体のあっせん、指定紛争解決機関の紛争解決手続による和解が成立している場合
- 弁護士会の機関におけるあっせんによる和解、またはその機関の仲裁手続による仲裁判断がされている場合
- 消費者基本法のあっせんによる和解、または合意による解決が行われている場合
- 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)の認証紛争解決事業者による場合
行政の確認を省けるのは、それに代わる判断が外部で済んでいるときだけ。当事者2人で話がついた、は入っていません。
僕がこの条文から持ち帰った3行
条文を読んだあとで、自分の口座まわりで変えたことはほとんどありません。もともと返金を期待していなかったからです。ただ、確認する項目は3つだけ増えました。
- 業者から金銭的な補償の話が来たら、その場で受けずに、何を根拠にした提案かを先に聞く
- 自分から「埋めてほしい」と要求しない。要求したかどうかが第2項の分かれ目だから
- システム障害やサーバの不具合で約定がおかしかった日は、時刻と画面の記録を残す。府令第118条のニに当たりうるのはそこだけ
記録の書き出しは毎年12月28日にまとめてやっていて、所要は20分ほど。同じシートを2024年の秋から使っています。障害があった年は、その日に該当のスクリーンショットを同じフォルダへ入れています。実際に使ったことは一度もありません。使う日が来ないほうがいいものなので、それでいいと思っています。
自分の取引が第118条のどれに当たるかの判断は、僕にはできません。そこを勘で決めないほうがいい。争いになりそうなときは、金融商品取引業協会のあっせんや指定紛争解決機関のような、条文が名前を挙げている窓口が先です。
FX(外国為替証拠金取引)は為替相場の変動により損失が生じるおそれがあり、預けた証拠金を上回る損失が生じる可能性があります(元本保証はありません)。本記事は情報提供・読み物を目的としたものであり、特定の口座やFX業者への申込み、取引を推奨するものではありません。法令の適用関係は事案の実態や個別の事情によって異なり、法令は改正される場合があります。具体的な事案の取扱いについては、金融商品取引業協会のあっせんや指定紛争解決機関、弁護士等の専門家にご確認ください。業者を選ぶ際は、金融庁に金融商品取引業者として登録されているかを確認し、無登録業者は利用しないでください。最終的な判断はご自身の責任で行ってください。掲載内容は執筆時点(2026年9月)の一般的な情報です。本サイトはアフィリエイト広告(成果報酬型広告)を利用する場合があります。


